老後の達人たちへ

田中利典(金峯山寺長臈 / 種智院大学客員教授)

 1987年の日本は、初めて100歳以上の人が2,000人を越えました。そして35年後の現在、100歳以上の人はなんと86,000人を越え、昨年比、6,000人増というから、すさまじい増加数と言えるでしょう。

 男性は、この急激な長寿社会の到来に右往左往しています。社会をリタイアしてからの時間がどんどん延びて、会社勤務や仕事のない、終わりの見えない日常をどう送っていいかわからない。そんな状況を大方の男性たちは迎えているように感じます。じつに情けないです。

 その点、女性はたいしたものです。キャリアウーマンとして活躍してきた人も、家庭専職で頑張ってきた人もそれぞれに、職場付き合いや子育てなど、いろんな患いから解放され、これからの長い熟年・老年期生活を生き抜く達人たちばかりではないかと、私は密かに思っています。なにせ家庭のこと、身の回りのことを妻任せにしてきた同世代の男どもとは違って、自分のことはずっと自分で出来てきた人たちばかりだからです。

 「終わりよければすべてよし」とは名言です。いま、50代前後を生きる人は、人生をまだ半分しか終えておらず、あと半分が残っています。これまでの人生の成果をおおいに謳歌してください。もし失敗があったのなら、十二分にやり直す、新たに生き直す、たくさんの時間とおおいなるやる気が残されています。

 この先10年で、社会的な役割を果たし、終わっちまった症候群に陥る大方の男性たちとは、そこがおおいに違うように思っています。太古より「仕事」とは「稼ぐ」ことではなく、「生きる」ことだと知っていたのが女性だからです。

 本書に紹介された「姉たち」のお話は、そういう意味でも、これからの人生を培っていく大きな大きな糧になるでしょう。

田中利典(たなか・りてん)さん プロフィール:

金峯山寺長臈(きんぷせんじちょうろう)、宗教法人林南院住職、種智院大学客員教授。1955年、京都府綾部市生まれ。龍谷大学文学部仏教学科・叡山学院専修科卒業。2001年に金峯山修験本宗宗務総長及び金峯山寺執行長に就任。2004年7月に認定された世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の登録推進に活躍。2015年から金峯山寺長臈。2013~2015年、帝塚山大学特定教授。2016年種智院大学客員教授就任。著書『よく生き、よく死ぬための仏教入門』(扶桑社新書)、『体を使って心をおさめるー修験道入門(集英社新書)、『修験道っておもしろい!』(白馬社)。共著『修験道という生き方』(新潮選書)『はじめての修験道』(春秋社)など。田中利典公式サイト http://tanakariten.com/

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