それぞれの「錦」を後世につなげて

龍村 周(伝統織物作家、一般財団法人日本伝統織物研究所代表)

私は京都で伝統織物のお仕事を継いで4世代目になります。初代から「錦の美」を追い求め、古代から受け継がれてきた伝統織物を継承していくことが使命です。「錦」は日本人があらわす美しいものの代名詞です。

主たるお仕事は古代の織物の復原研究です。織物の分析解析、蚕、機織り機、道具など、あらゆる織物制作に関わる事柄を研究し、できるだけその当時の環境を作り、新たに織り上げることで、技術の継承につなげていくことが目的です。その過程では多くの学問が必要です。織物は数学で成り立っています。その他にも生物、植物、化学、美術、考古学なども関連してきます。また織物を製作するには多くの高度な専門技術をもった職人さんたちが必要で、決して一人でできるお仕事ではありません。

このように一言で織物と言っても多くの事柄に通じており、とても広い世界です。

先人たちは、それぞれに各個人の得意分野を生かし、時代ごとに「知恵と工夫」をこらして現代につなげてきてくれました。それは、たぶん特別なことをしてきたのではないと思います。私自身もスポーツ、音楽、美術など様々な学びを通して、それが織物のお仕事に随分つながって、実を結んでおります。先人の方たちも、それぞれに自分の生きてきた過程の中で培った経験を少しの「創造力と発想」で織物のために、自分のために生かしてつなげてきたのだと思います。それも、日々の生活の中で自然に学び、自身が持つ力を最大限発揮した賜であろうと思います。現代に生きる私たちに遺してくれたことを感謝しつつ、未来へつないでいくために私たちも生活していかなければ、と願っております。

ぜひ、皆様のこれまでのご経験を生かしていただき、皆様それぞれの「錦」を後世につなげていただけましたら幸いです。これからの皆様への応援を込めて。

龍村周(たつむら あまね)さん プロフィール:

錦の伝統織物作家、書道・篆刻・陶芸作家。1974年生まれ、京都府出身。東京造形大学卒。創業1894年。株式会社龍村光峯/代表取締役(2012~)、一般財団法人日本伝統織物研究所/代表理事(2019~)、同志社大学プロジェクト科目嘱託講師(2010~)歴史文化工学会理事(2015~)京都市伝統産業「未来の名匠(西陣織)」に認定(2018)、国際日本文化研究センター共同研究員(2021)https://www.facebook.com/amane.tatsumura

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