アメリカにおける「寄付」の2つの側面
アメリカ国内で、断トツにお金持ちが多く住む地域というと、ニューヨーク州やカリフォルニア州を思い浮かべませんか? でもアメリカの州ごとの統計をみると、お金持ちが多く住む州が必ずしも社会還元や慈善寄付に積極的だとは言えないようです。
アメリカでの「寄付」は、二つの側面をもっています。ひとつは「社会を良くする」ため。そして、もうひとつは「税金控除のため」です。特に富裕層や企業にとって後者の税金控除は重で、アメリカのファイナンシャル・アドバイザーの中には、社会への寄付を専門にアドバイスを行う人もいるほどです。
金融の媒体『SmartAsset』では、定期的に「全米中、どこの州が最も社会還元をしたか」という統計を発表します。同誌が2019年末に発表した統計によると、その年に最も慈善活動に積極的だった州は、ユタ州でした。この統計はアメリカ国内200カ所のメトロエリア(大型都市)を対象に、所得に対する慈善寄付、慈善寄付に対する納税申告の割合、平均慈善寄付、ボランティア率およびボランティアに費やした時間を統計して、導き出したもの。ユタ州はそのうちのトップ3のメトロエリアを独占(Provo-Orem、Ogden-Clearfield、Salt Lake Cityの3カ所)。しかもユタ州が上位に入るのは毎年のことです。
その他の地域をみると、バージニア州やノースカロライナ州、アイダホ州、オクラホマ州などの大きな州が上位にランクインしています。しかし、冒頭で例にあげたニューヨーク州とカリフォルニア州はトップ10入りしておらず、かろうじてカリフォルニア州サンディエゴ市が19位にランキングされているだけです(ニューヨークはランキング外)。
寄付が多い州には宗教的背景も
寄付ランキング上位の地域の最大の要因は宗教にあります。 ユタ州の場合はモルモン教が人口の多くを占めていますが、信仰に熱心な州という点では、ミシシッピ州、アラバマ州、ルイジアナ州、サウスカロライナ州などが続きます。また政治的にみると、これらの州は保守傾向が強いという特徴もあります。ですからアメリカで行われている社会還元活動を知るには、保守州や保守層の動向は無視できません。
しかし一方で、これらの州が社会還元活動に熱心な理由のひとつが、宗教と密接であることなので、その点は留意しながらデータを読み解く必要があります。それと同時に、これらの州が近年はグローバル型のビジネス拠点としても注目を集め始めている点も、無視できません。例えばユタ州に続く4位にランクインしたバージニア州(メトロエリアではCharlottesvilleがランクイン)は、CNBCによる「アメリカでビジネスに最適な州ランキング」調査でトップに躍り出ています。この調査はビジネスを行う上で重要だとされる10分野64項目(労働力、経済、インフラなど)を数値化して州ごとに比較する調査ですが、バージニア州が首位に返り咲いたのは8年ぶりのこと。国防の中心地であり、アマゾンドットコム社が第二本社に選んだ州ということでも今後、注目を集めそうです。
ビジネスに最適な州も意外な州が強い
ちなみに2019年末に発表された「ビジネスに最適な州」トップ10は下記の通りです。
1位:バージニア州(前年4位)
2位:テキサス州(前年1位)
3位:ノースカロライナ州(前年9位)
4位:ユタ州(前年3位)
5位:ワシントン州(前年2位)
6位:ジョージア州(前年7位)
7位:ミネソタ州(前年6位)
8位:ネブラスカ州(前年14位)
9位:コロラド州(前年5位)
10位:オハイオ州(前年15位)
慈善活動に熱心な州が、いくつもトップ10に入っています。そして知名度から見ると最も有名なニューヨーク州とカリフォルニア州は、ニューヨーク州が27位、カリフォルニア州は32位と、かなり下にランクインしています。