次に繋ぎたいと思う心を育てる

堤卓也(株式会社堤淺吉漆店 専務取締役)

 僕は明治から続く漆屋の4代目ですが、仕事を継ぐようにと言われたことはありませんでした。じいちゃんの家に行けばそこが工房で、漆でおもちゃを作ってくれたり、モノを直してくれたり。じいちゃんの愛情とともに漆がありました。

 ピアノの先生であり、「ピアノやりたいんだったら目が出るまで私が育ててあげるから、やりたいことやりなさい」と言う母と、まじめで堅物だけれど、全てを許容しながらやらせてくれる父。そんな両親に育てられて、今の僕があります。

 そして、息子の授業参観に行ったときに、掲示板に息子が書いたこんな言葉を見つけました。
「将来なりたいこと。漆屋さん」

 大量生産と大量消費社会の中、地球が傷つくスピードと同じように、すごい勢いで減少する漆。絶望だらけの状況に、“漆とサーフィン”という自分なりのアプローチを始めて数年、今では希望を感じられるようになってきました。

 縄文から脈々と繋がれてきた、大きな時間軸での漆。それを繋いできた時代ごとの人の暮らしや輪のような横のつながり。日々の小さな積み重ねで繋がってきた大切な時間。その想いをそれぞれの人のやり方で伝えていくこと。

 そして、次に繋ぎたいと思う心を育てること。

 人と自然、人と人を繋ぐものとして、工芸をカッコイイ、子供たちの憧れの仕事として次世代に繋いでいきたいと思います。

「サーフボード×漆」や「BMX×漆」など、漆との新しい出会いを次々と提案する堤卓也さん

堤卓也さん プロフィール:

1978年生まれ、明治期から続く漆の精製業者の四代目。(株)堤淺吉漆店 専務。漆を育て収集する山側の「漆掻き職人」と、漆を塗る「塗師」の中間に立つ立場から、漆と人々の暮らしとの間に広がる距離感や漆の生産量の減少に危機感を感じ、漆のある暮らしを次世代の子どもたちにつなぐ取り組みとして「うるしのいっぽ」を始める。「サーフボード×漆」「BMX×漆」「スケボー×漆」など、今までになかった取り合わせを通じて、漆との新しい出会いを提案。1万年前から日本の風土で使われてきたサステイナブルな天然素材「漆」を次の時代に継承するべきものとして、2019年、パースペクティブを設立し、共同代表に。
堤淺吉漆店 https://www.tsutsumi-urushi.com
パースペクティブ https://www.forest-of-craft.jp/

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